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消化器内科 姉崎一弥

「広報せきかわ」2017年11月号より

「機能性ディスペプシア」

胆石症、胃潰瘍、胃炎、腸炎、食道炎など、お腹の疾患で様々な病名がありますが、「機能性ディスペプシア」というちょっと変わった病名を皆さんは耳にしたことがありますか? 病名には、疾患を発見した人の名前や疾患の治療法を開発した人の名前を付けて人名が病名となることがありますが、「機能性」は日本語、「ディスペプシア」はギリシャ語由良であり、日本語+ギリシャ語由良の病名と成っています。

ディスペプシアとは、胃部不快感や胃もたれなどの上腹部を中心とした腹部症状のことを言いますが、2013年に「機能性ディスペプシア」という保険病名が誕生しました。比較的新しい概念の病気で、日本の保険病名でありながら一部にギリシャ語由来が認められたちょっと変わった病名です。

ところで話は変わりますが、皆さんの中でお腹の具合が悪く、胃内視鏡検査を受けたことがある方がいらっしゃると思います。検査結果で慢性胃炎と言われた方も多いでしょう。“慢性胃炎が原因ですね”と説明を受け、胃薬の処方を受けたケースが少なからずあると思います。しかし、処方された胃薬を飲んでもお腹の具合がいっこうに良くならない。後日別の検査で胆石症と判り、お腹の具合が悪い原因が判明してメデタシメデタシ 原因疾患の治療が行われます。ところが、慢性胃炎以外の所見が全く無ければ、やはり原因は慢性胃炎。でも、胃薬を続けて飲んでも症状に変化が見られない。そんな経験や話を聞いたことはありませんか。慢性胃炎は胃粘膜の組織学的炎症で、ほとんどの原因はピロリ菌、またほぼ無症状です。内視鏡、CT、超音波、血液検査などで判らないお腹の疾患に機能性消化管疾患があります。これには①機能性ディスペプシア、②胃食道逆流症、③過敏性腸症候群の3つに大きく分類されますが、機能性ディスペプシアの病態としてはストレスに対する応答異常(過剰反応)による胃運動機能異常、内臓知覚過敏により直接的に症状を引き起こしていると考えられています。

日本は「機能性ディスペプシア」の先進国であり、2014年4月に日本消化器病学会から診療ガイドラインも刊行されました。それによると「機能性ディスペプシア」の多くはこれまで慢性胃炎として診断、治療されてきましたが、両者は次元の異なる別の疾患であることが明記されています。有病率は健診受診者で11~17%、症状のある病院受診者では45~53%と報告されています。症状の原因となる疾患が無いにもかかわらず、胃十二指腸に由来すると思われる症状が慢性的に存在するものは「機能性ディスペプシア」の可能性が高いのです。

胃薬を続けて飲んでいるのに慢性的に胃の具合がすぐれない方、「機能性ディスペプシア」を疑って医師とよく相談する事をお勧め致します。