内科 黒川 允
「広報せきかわ」2016年12月号より
坂町病院に赴任して地域医療をやっていて思うこと
先日、研修医の指導医の資格をとるべく講習会に参加しました。その中で「魅力ある研修をうけてもらうプログラムを作る」ためのテーマに「地域医療研修」があったのですが、「大学病院で働いている医師が多いグループには向いていないテーマだ」とか、「人が少ない医療過疎地域の経験がない」と話す人がいました。どうも僻地診療=地域医療と思っておられたようです。
確かに、高齢者が多い僻地診療では、病院外の「生活」の問題への対応も求められ、それ故に介護関係にも詳しくなる必要がありますが、これは地域医療の一端に過ぎません。地域医療とは、「ある地域に住んでいる住民が抱える医療の問題を解決する医療」と考えます。
実例を挙げてみましょう。私が新潟大学病院で勤務していた時の話ですが、昨今の大学病院は、諸々の事情で県央地区からの救急車の受け入れも必要です。その中に肺炎治療後に自立した生活が困難になり在宅調整に入った患者がいましたが、患者の家族は「新潟市だと急患の相談ができるから新潟市内の施設を探したい」、「今まで住んでいた○○地区と△△病院は急患を受けないから(患者を)戻せないし、私たちも戻りたくもない」と、納得できる主張をされておりました。一方で、大学病院は極めて高度な検査など受ける入院予約待ちの患者が多数おり、泣く泣く入院予定の患者は延期してもらい、在宅調整をゆっくり行える転院先を検索し、幸いにも新潟市内の療養病院に転院できました。これは新潟市と県央地区が抱える「急患の受け入れ」と「退院後の安心できる生活の確保」いう各々の地域医療の問題と言えます。
というわけで、大学で働いていても必ず地域医療に携わっており、単に自覚がないだけと私は思います。
私が坂町にきて半年たちましたが、言い方を変えれば半年しかこの地域に住んでおりません。この病院がカバーする医療圏の住民が困ったことに対し、まずは耳を傾けどんなニーズがありどう対応すべきかを日々模索しております。地域医療の実践には病院だけでなく、ケアマネージャーをはじめとした介護関係に携わる方々の能力も重要です。1つでも欠けると患者と家族は安心できる生活は確保できず、そうなると、その地域の住民はその地域から離れてしまう・あるいは離れざるを得なくなると私は考えます。