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五十嵐 仁 医師

「広報せきかわ」2013年10月号より

検尿と腎臓病の話

 皆さんにとって腎臓病とはどういうイメージでしょうか。心筋梗塞や肺炎、脳卒中などであれば、こんな病気といった想像がつくでしょう。しかし腎臓病は症状はなく、血液検査を受けているだけでは気づかれることもありません。もし症状や血液検査で腎臓病が分かる状況ならば、その時にはかなり病状が進行している段階です。

 腎臓はどのような働きをしているでしょうか。大きく2つの役割があります。余分な水分を捨てることと、体にたまった水溶性の毒物を体外に捨てることです。その他にも、造血ホルモンを作ったり、骨を丈夫にするビタミンDを作ったり、血液を上げるホルモンを作ったりと、あまり知られていないけど重要な役割も担っています。腎臓病になるとこれらの役割が十分に行えなくなります。

 最初に「腎臓病は血液検査では分からない」と書きました。知るための手段が尿検査です。タンパクが出るとか潜血がある、などという会話が交わされますよね。その結果が重要です。尿検査自体はとても簡単な検査です。コップに尿をとり、試験紙を浸し、時間が経ったら試験紙を入れた容器に貼られている写真の色と比較して結果を判定します。

 しかし、この検査を気軽に行える施設はあまりありません。病院には自動検査機がありますが、それ以外の施設では基本的に手作業です。短い時間でも、きちんと秒単位の時間を計り、速やかに色を判定する作業は技術が必要です。複数の検体を平行して処理できず、一人分ずつやっていくしかありません。検査後は尿や使用したコップを適切に廃棄しなければなりません。尿をこぼすとにおいが残ります。

 その点、健診では必ず尿検査をしてくれます。この機会を逃すすべはありません。健診で検査される項目は、血圧、血糖、脂質、肝機能、尿など、いずれも軽い異常では症状のないものばかりです。受けなければ分からない軽い健康障害を発見するために健診はあります。もし異常を指摘されたら、是非かかりつけの先生か最寄りの医療機関で相談して下さい。

 腎臓病の医療はどんどんよくなっています。しかし進行してしまって組織が壊れてしまった腎臓を元通りにするほどの技術はまだありません。すっかり機能を失ってしまえば、透析治療を一生続けることが必要です。この記事を読んで頂いた皆様方には、是非検診をお受け頂き、早期発見早期受診に努めて頂きたいことをお願いしたいと存じます。