新井 亜希 医師
「広報せきかわ」2013年6月号より
ぱーきんそん騒動記
「私、手がふるえるから『ぱーきんそん』なんです!」「じいちゃんが歩けなくなって『ぱーきんそん』と言われた!」「テレビで見た薬を下さい!」
このように駆け込んでくる方が数え切れないほどおられます。まずは診察と検査を行いましょう、と申し上げても、「テレビで言ってたし、インターネットで書いてあったし、早く薬を下さい!」と、お叱りを受けることもございます。
しかしながら、パーキンソン病やパーキンソン症候群の診断と治療は神経内科専門医でも細心の注意を必要とするものであり、単純なものではありません。実際、『ぱーきんそん』と駆け込んでくる方々のうち、本当に典型的なパーキンソン病である方は一部であり、その他の病気や原因をお持ちであることも多いのです。
特に高齢者の場合、内科の病気をはじめとする様々な病気や薬の影響で、ふるえたり、歩けなくなってしまうことがあります。ですから、きちんと原因をつきとめて、原因に応じた対応をすることが重要です。単純にパーキンソン病治療薬を使用すればよいというものではありません。
「ぱーきんそんだ!」と駆け込んでくる方を診察する際には、まず、その方が内服しておられる薬を詳細に調べます(受診時にはお薬手帳を持参して下さい)。なぜなら、人によっては、内科の病気などの治療のために必要だからこそ使用されている、ごくごく一般的な普通の薬によってパーキンソン症候群が生じてしまうことがあるからです。
認知症として多くの薬を内服しておられる場合にも注意が必要です。そして、パーキンソン病治療薬によって症状が、むしろ悪化したり、幻覚を生じたりする病気もあるので話は複雑です。ですから、様々な事柄に配慮することが必要であり、神経内科専門医でも細心の注意を必要とする、大変難しい舵取りを考えることになるのです。
さて、いざ治療方針が決まっても薬の調整には時間がかかります。「テレビで言ってた薬を下さい」「すぐに特効薬を処方できないのか!」「通院が大変だから、すぐに治せ!」などと言われることも多いのですが、その方に最適で副作用の少ない治療を行うためには、時間をかけた丁寧な治療が必要です。症状をゼロにはできなくても、正しい治療によって、より快適に過ごすことは可能です。
じっくりと治療に取り組むことが重要なのです。