近 幸吉 医師
「広報せきかわ」2012年2月号より
『事前指示書』について 〜四つのお願い〜
医療のめざましい発達により、かなりのところまで延命治療で寿命を延ばすことはできるようになりました。しかし、高度の認知症や重篤な再起不能の病気になった時など、ただ単に死の過程を長引かせるだけの延命治療をやめて自然の死を迎えたいと考えている方も大勢います。
この願いを予め書面に残しておき、いざというとき(自分で意思表明ができない時など)自分の意志として尊重してもらう、この書面を『事前指示書』といっています。欧米ではかなり一般に使用され始めており「四つのお願い」からなります。
「四つのお願い」は、単に延命治療を望まないと表明することではなく、自分の終わり方をいかに快適に過ごし、充実したものにするか、自分が愛する人々に伝え・伝えないことを自ら決定しておくことです。
事前指示書「四つのお願い」は、以下の四つの項目からなっています。“あなたが重い病
気にかかり、自分の意思を伝えることができなくなった時”の予めの意思表明です。
(1)あなたに代わって、あなたの医療やケアに関する判断・決定をしてほしい人を明確にしておくこと。
(配偶者や子供などの家族、親戚、親しい友人、あるいはその他あなたが信頼している人などの中から成人に達している人)
(2)あなたが望む医療処置・望まない医療処置について正確に指示しておくこと。
(経管栄養、人工呼吸、心肺蘇生、大手術、輸血など)
(3)あなたの残された人生を快適に過ごし、充実したものにするために、どのようにしてほしいのかを残しておくこと。
(苦痛を和らげるための十分な処置や投薬、呼吸困難・吐き気などに対する十分な処置や投薬、熱があるときには適切な処置や投薬、口腔内ケアや皮膚のケア、身体の清潔、髭剃り・爪切り・髪をとかすこと・歯磨きなどの日常的ケア、誰かが側にいてくれること、話しかけたり・手を握ってもらうこと、もし可能であれば自分の家で死ぬこと)
(4)あなたの愛する人々に伝えたいこと。
(あなたの大切な家族や人々に対して、深い親愛の情を持って、心をこめて伝えておきたいこと)
また、最初の記載がずっと有効とされるわけではありません。気持ちの変化、年齢の変化によって、その時々で再考・再確認できるものです。
医療の現場で医師たちは、患者の命を生きながらえさせることを使命とします。人は、患者となった時点で医師を信頼して医師に身体を預けます。しかし、自分の終わり方まで委ねるべきではありません。意思あるときに、医師に対し、自分の終わり方を指示しておくことも必要です。
むしろ、本人の事前指示があることにより、医師もまた適切な医療行為を実行することが可能となります。本人にとって無意味な希望していない延命行為を処置する必要がなくなります。また、家族は、本人が本当に望んでいることについて単なる憶測で処理しなくてすみます。本人の希望がわからないまま、終末期の医療について選択し続けることが、家族の苦悩を倍加させている場面もよく病院では見かけられます。
ぜひ一度、家族みんなで「四つのお願い」について考えてみて下さい。