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姉﨑 一弥 医師

「広報せきかわ」2011年5月号より

子供の頃によく井戸水を飲みましたか?

 皆さんはピロリ菌と言う名前を聞いたことがありますか?

 ピロリ菌の正式名称は「ヘリコバクター・ピロリ」と言います。1983年に発見されるまで正体不明の謎が多い細菌でした。「ヘリコ」とはギリシャ語でらせんという意味を持ちますが、これはピロリ菌が2~3回ねじれたらせん形状をしているためです。ヘリコに続く「バクター」は細菌のことです。また、「ピロリ」とはピロリ菌が胃の出口に近い幽門部のことを指すピロルスで多く発見されることから名付けられました。つまり胃の出口近くにいるらせん状の細菌であることから、ヘリコバクター・ピロリと呼ばれています。

 ピロリ菌は胃の中に好んで住みつき、自らが住みやすい環境を作り出して生息していますが、まだ免疫力が弱い5歳くらいまでの子供の頃に感染します。

 ピロリ菌に一度感染すると、除菌しない限りほぼ一生涯感染が続きます。食べ物や飲み物から感染しやすいと考えられており、基本的には口から侵入する経口感染です。また、上下水道の普及が乏しく衛生状態の悪い地域ではピロリ菌に感染する確立が高いことが判明しています。

 現在、日本人の約50%以上がピロリ菌に感染しているとの調査結果があります。世界中でこの菌の保菌者は増えており、発展途上国では感染率が高く、先進国では感染率が低い傾向があります。現在の日本の水道環境は安全ですが、井戸水や湧き水の衛生環境には不安を感じます。

 ピロリ菌に感染すると胃に悪影響を及ぼしほぼ全員が慢性胃炎となり、次に胃壁が薄くなる萎縮性胃炎となります。この萎縮性胃炎が進むほど胃がん発生の危険が増します。また、他に胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃リンパ腫の発生にもつながることが明らかになっています。しかし、発病するのは保菌者の3割程度であり、残りの7割の人は感染しながらも発病しない健康保菌者です。

 現在保険治療で除菌ができるのは一部の病気だけですが、平成21年1月に日本ヘリコバクター学会は、胃がん予防のためピロリ菌保菌者には除菌を勧めるという指針を発表しました。ピロリ菌感染の有無を調べる方法は色々あります。

 子供の頃に井戸水や湧き水を飲んだ経験があり、日頃胃の調子が悪い方はこれを契機に一度医師へ相談されてみてはいかがでしょうか。