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番場 竹生 医師

「広報せきかわ」2010年7月号より

正しい傷の処置、ご存知ですか?

 包丁で指に切り傷ができた時、転んで膝を擦りむいてしまった時、皆様どのように対処していますでしょうか?

 医療の世界は日進月歩とよく言われますが、傷の治療方法も最近大きく変わっています。

 私が医者として働き始めた約十年前は、傷の治療の基本といえば一にも二にも「消毒」と「ガーゼ」でした。ところが、この「消毒」という行為が、かえって傷の治りを悪くしてしまう、というのが最近の新しい考え方となっています。

 そもそも、私たちの体が傷を治そうとする時、まず傷の部分を覆うように体液(「浸出液」といいます)がにじみでてきて、その体液の中で小さな細胞が傷の補修を行います。傷を「消毒」してしまうと、この大切な細胞が大きなダメージを受け、傷の治りを悪くしてしまうのです。もちろん泥などで汚れた傷は細菌も多く、そのままでは化膿してしまうこともありますが、大切なのは「洗浄」であり「消毒」ではないのです。ちなみに「ガーゼ」で傷を覆うと、この大切な体液を吸収してしまい、やはり傷の治りを悪くするといわれています。傷の水分を保つ特殊なテープで保護するのが理想的といわれており、最近では薬局等でも手に入るようになりました。傷は乾かして治す時代から、潤いを保って治す時代に変わったのです。

 私たち坂町病院外科では、日々たくさんの手術を行っています。手術内容は大きな手術(胃や大腸がん等)から比較的小さな手術(脱腸、痔)まで多種多様です。最近では、傷を小さくして体への負担を軽くする為に、腹腔鏡というカメラを使った手術も積極的に行っています。しかし、手術の大小に関わらず、体には傷が残ってしまいます。現在、手術の後の傷は特殊な保護テープで覆い、「消毒」は一切していません。時に、消毒もしてくれない、といった不満の声が聞こえてくることもありますが、私たちは傷治療のプロとして、日々勉強しながら治療に取り組んでいます。

 日常生活でできた傷でも、出血がひどかったり、目立つ場所で傷が深い場合は、傷を縫合する必要があります。傷の場所にもよりますが、最近では糸で縫うかわりにテープで傷を閉鎖する方法もあります。また、汚れのひどい傷は局所麻酔をした上で、丹念な洗浄が必要な場合もあります。

 傷の治療は最初が肝心ですので、困ったときは医療機関に相談することをお勧めします。