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近 幸吉 医師

「広報せきかわ」2010年3・4月号より

古くて新しい病気“結核”について

結核とは

 結核とは昭和20年代半ばまでは日本人の死亡原因のトップであり国民病と呼ばれ恐れられる病でしたが、現在は、医療と一般の生活水準の向上で、きちんとした治療をすれば完治できる病気となっています。しかし、今でも日本で日に90人新しい患者が発生し、6人がその命を落とすという油断のできない我が国で最大の感染症です。結核から身を守るためには、正しい知識と結核について関心を持つことが重要となります。

結核の感染のしかた

 結核は、患者の体の中の結核菌が、咳やくしゃみで、空気中に飛び出し、それを周囲の人が肺の中に吸い込むことにより感染します。結核菌は、極めて丈夫な細菌で、乾燥に強い性質を持ちます。このため、咳などのしぶき(飛沫)の 周りの水が乾燥・蒸発して、中心部だけとなった状態(飛沫核)でも生き続けます。
 一旦、飛沫核となると、結核菌はすぐには、床や地表には落下せず、空気中に30分以上も漂い、空 気の流れに乗って広がります。 空気で広がり、感染するので、空気感染(飛沫核感染)といいます。しかし、屋外に出て、拡散したり、紫外線に当たったりすると、急速に感染力を失います。

感染と発症

 結核に感染(菌が体の中に入り込み定着すること)しても必ず発病(病気として症状が出てくること)するわけではなく、通常は身体の免疫機能が働いて結核菌の増殖を抑え込みます。しかし、結核菌は強い菌なので、体内で冬眠状態になって生き残ります。そして、高齢や糖尿病などで免疫力が低下すると、再び増殖を始めて発病します。感染してから、2年以内に発病することがほとんどですが、その期間を過ぎても、 結核菌は体内でいわば「冬眠状態」となって生き続け、免疫力が落ちると、たとえ何十年後でも、発病することがあります。
 高齢者に結核発病が多くみられるのは、こうした理由によるものです。 感染しても発病するのは10人に1人程度で、日頃から十分な健康管理をしていれば、一生発病しない可能性が高いのです。

症状と治療

 結核の初期症状は、風邪とよく似ていますが、咳やタンが2週間以上続いたら早めに医療機関で受診しましょう。早期発見は、適切な治療につながり、また、家族や職場等への感染の拡大防止にもつながります。

   結核を発病しても、きちんと服薬すれば多くの患者は完治します。結核の治療期間は、通常6か月から1年程度です。結核の治療はだいたい3〜4剤を併用使用して行います(標準治療法)。
 なぜ3〜4種類なのかというと、薬の耐性菌ができないようにするためです。つまりたくさんの薬を飲むことによって、結核菌に対して耐性ができないようにしているのです。耐性ができてしまうと、薬が効かなくなってしまいます。そうなると結核が治らなくなるので困るわけです。規則正しく決められた通りきちんと内服することも耐性菌の出現予防には大変重要です。
 また、発病前の「感染」の状態で発見できれば、服薬により発病をある程度予防できます(INH:イソニアジドという薬を内服することにより発症を約1/4に減少させられるとの報告もあります)。

 最近では結核菌の感染状態(発病してないが体に菌が定着した状態)の診断にクゥオンテフェロンTB-2Gという検査が使われるようになりました。これまでのツベルクリン反応に比べ1回の採血だけで分かり、しかも精度も高く非常に有用です。

集団感染

 結核が蔓延していた1950年頃は、成人のほとんどが結核既感染であったため、集団感染は、主に学校で結核未感染の子供達によって発生していました。ところが今は、中年の人でも大部分が未感染ですから、学校以外に事業所、病院、福祉施設など様々な場所で多発しています。
 結核は過去の病気と思いこみ、症状が現れても本人も医師も気付かず、受診や診断が遅れるケースが多いことが、集団感染の多発につながっています。また最近では、結核既感染の高齢者が新たな結核菌に再び感染し、集団感染に発展したケースも報告されています。

最後に

 今では結核なんて過去の病気とおもっている方が多いのではないでしょうか。結核が忘さられ過去の病気だと思われていることも、結核を根絶できない原因の一つになっています。風邪のようでいて風邪ではないもの、それが結核です。結核は、結核菌を肺に吸いこむことで人から人へとうつる感染症です。  自分の健康、そしてなによりも家族や周りの人の健康を守るため、結核についての正しい知識を知っておくことが必要です。
 また、最近では、移植等で免疫力をあえて落とすような薬を使用している方、エイズ患者さんなどにおける結核も新たな問題となってきています。
 長引く微熱・長引く咳・長引く倦怠感・体重減少・痰がでる・胸痛などの自覚症状があるときはすぐ医療機関を受診しきちんと検査を受けることをお勧めします。