「広報あらかわ」 2006年12月号より
  「胸やけ症状の原因と対策」
松澤 純 医師
 “胸やけ”という症状を自覚された方は多いと思います。「胸がチリチリ焼けるような・・・、」「食べたものが胸の途中で停滞しているような・・・、」「喉に酸っぱいものがこみ上げるような・・・、」このように表現はさまざまかもしれませんが、あの不快な感じは何が原因なのでしょうか・・・?原因はいくつかありますが、その大本は胃液という強力な酸(塩酸)が食道に逆流するからなのです。

 食道と胃のつなぎ目部分は、食道括約筋という筋肉の働きで食べ物が通る時以外は閉じているので、通常は一旦胃の中に入ったものは食道へは逆流しないような仕組みになっています。しかし食道括約筋が緩んだり、腹圧が上昇したり、同時に食道の蠕動運動が正常に働かなくなると、胃液を含んだ胃内容物が食道に逆流します。食道の粘膜は胃とは異なり、酸に対し防御機能がないため、強酸性である胃液に食道粘膜が長時間さらされると炎症が生じ、胸やけ症状を引き起こします。これが胃食道逆流症です。ひどくなると食道粘膜がただれて逆流性食道炎を引き起こしてしまいます。

 以前までは、この胃食道逆流症は脂肪分を多く摂取する欧米人に多いと考えられていましたが、食事の欧米化(肉類は胃液をより多く分泌させます)・体型の肥満化(腹圧の上昇)・高齢化(食道括約筋の緩み・前かがみの姿勢)などにより、最近は日本でもこの症状に悩まされる人がふえてきています。

 症状は、前述の胸焼け・胃もたれ感・呑酸感だけでなく、頑固な咳・しわがれ声・胸痛など気管支や喉もしくは心臓の病気を疑うような症状を訴える方もいらっしゃいます。

 それでは診断のためにどんな検査を受ければいいのでしょう・・・?
薬を内服してその後の経過を観察する方法もありますが、症状が長期間続くようであれば、ぜひ内視鏡検査を受けてください。胃酸逆流に伴う食道粘膜の発赤やただれを認めれば、診断を確定できます。他の病気を見逃さないためにも、検査をお勧めします。

 次に、治療法と日常生活での注意点をお話します。まずは、胃酸の分泌を抑える薬を内服します。これにより大概は症状が速やかに改善しますが、ここに消化管の運動を手助けする薬を追加することもあります。日常生活の注意点としては、まずは腹圧の上昇を避けることです。それには、

1)肥満・便秘の解消。
2)前かがみの姿勢を避ける。
3)腹部を締め付ける服装を避ける。
4)重いものを持ち上げない。

以上のことに注意したうえ、逆流の予防として、

5)食後1〜2時間は横にならない。
6)就寝する際は、クッションなどを利用して上半身を高くした姿勢をとるか、あるいは右を下にするような横向きの姿勢をとることお勧めします。

 日常の食生活においては、まずは食べ過ぎないことに注意したうえで、脂肪分の多いもの・甘味類・チョコレート・サツマイモ・みかん類、このほかコーヒー・お茶(緑茶や紅茶)・アルコールなどの嗜好品を控えます。そして禁煙も心掛けましょう。

 いつも夜遅く帰宅してから食事をして、その後まもなく就寝するというお父さんたちは、この胃食道逆流症の予備軍といえるでしょう。おなか周りが気になる方はなおさらです。
思い当たる方は、今晩からでも日頃の生活習慣を改めてみてください。
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