朝とは反対の方向から、明神橋の手前の大通りの角に出たおしゃぎりは、その場で神社に向かい最後のあいさつをすると、それぞれの町
内へと帰って行く。お祭りの終幕を惜しむかのように、テンポを落としてゆっくりと「帰り囃子」を吹く笛の音に合わせて、若い衆がしゃ
がれた声でハヤしながら、おしゃぎりの帰りを待つ当宿へと向かう。
神社から二番目に遠い上町のおしゃぎりが町内に入り、新田町との境で向きを変えて、太次平の坂をのぼると、一番遠い惣新町のおしゃ
ぎりが、曳き綱に溢れるほどの曳き手と、その曳き手より多いくらいの町の人を後ろに従えて大通りを進んできて、二台のおしゃぎりは、
あんやの角で出会う。惣新町と上町の「帰り」は、よく似た旋律で、「あんりょう、あんりょう」とハヤす、合いの手も同じである。二台
のおしゃぎりが、手木と手木とがぶつかるほど接近させて停まると、一方がお囃子を休んで、交互に「帰り囃子」を披露し、両町の衆が声
を合わせて「あんりょう、あんりょう」の大合唱を繰り返す。惣新町と上町にとって、お祭りのフィナーレを飾る「あんりょうがけ」であ
る。お互いを讃え合い、満足感を分かち合って「あんりょう、あんりょう」が夜の町に響き渡る。「どうもありがとうございました」「あ
りがとうございました」、若連中の幹部があいさつを交わして別れを告げ、当宿への残りわずかの道を、それぞれの「あんりょう、あんり
ょう」をハヤしていく。
丸一日をかけて当宿に帰り着いたおしゃぎりで、全員の注目が集まる中、最後の最後の「帰り囃子」が演奏される。「よし終わりだ」、
笛を操る手を止めて笛吹きが告げると、歯をくいしばって最後までつとめあげた子供たちに、称賛の拍手が湧き起こる。子供たちにとって、
祭りでの役割をしっかりと果たした経験は、いい点数をとったテストなどよりずっと大事な、生涯の誇りになる。おしゃぎりの片付けが済
むと、当宿で味噌汁が振る舞われる。心尽くしの味噌汁が、疲れ果てた身体に沁み渡り、心までも温もって、ひとしきり今日一日のことが
らを話題にしたあと、皆で厚く礼を述べて当宿を辞去する。
疲れた足をひきずって家に帰り着くと、汗を洗い流すだけで、後は倒れこむように寝床に入る。起きだしてから、もう24時間が経過し
ようとしている。数時間後には、おしゃぎりの格納を始め、多くの後片付けが待ち構えている。すぐに寝つこうと思うのだが、目を閉じる
と、もう動いているおしゃぎりは一台もないはずなのに、どこからか祭り囃子が聞こえてくる。木遣り唄、車輪の軋む音、アスファルトを
摺る雪駄の音、駒下駄の音、男たちの掛け声、女たちの嬌声、そして先太鼓の音。思考を止めた頭の中に祭りの音が渦巻いて、この一日の
さまざまな光景が、脈路もなく浮かんでは消えていく。毎年のことだが、ありふれた日常に戻るまで、また後遺症に悩むことになると、暗
闇の中、ひとり苦笑いを浮かべる。
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