◆紀ノ川 (1966年 166)


有吉佐和子の同名小説を、劇作家としても知られる久板栄二郎がシナリオ化し、文芸ものを得意とした中村登監督が悠々たるタッチで描いた大作である。明治から大正、昭和の大きな世相を背景に、紀州・有功村六十谷の真谷家を舞台に、花、文緒、華子の三代にわたる女性の生き方を見つめつつ、古い家族制度が崩壊していくさまが丁寧に描き出されている。控え目だが芯の強い花は、22歳で旧家に嫁ぎ、義弟の秘めたる愛を感じながらも、嫁としての分を守り、政界に進出した夫に尽くしながら72年の生涯をまっとうする。時代の激流に翻弄されながらも家門を守り通す女の人生を見事に演じきった司葉子は、この年の映画賞で主演女優賞を総なめにし、女優としての代表作とした。なお、冒頭の、花が嫁入りのために紀ノ川を下っていく舟のシーンは、名カメラマンとして知られた成島東一郎の技量が遺憾なく発揮された名場面である。

[スタッフ]
(原作) 有吉佐和子
(脚本) 久板栄二郎
(監督) 中村登
(製作) 白井昌夫
(撮影) 成島東一郎
(照明) 中川孝一
(録音) 田中俊夫
(音楽) 武満徹
(美術) 梅田千代夫

[役名(キャスト)]
花 (司葉子)
文緒 (岩下志麻)
華子 (有川由紀)
豊乃 (東山千栄子)
真谷敬策 (田村高広)
真谷浩策 (丹波哲郎)
政一郎 (中野誠也)
市 (沢村貞子)
ウメ (岩本多代)